グリースの分類と特性
石けん系グリース
カルシウム石けんグリース
一般に、カルシウム石けんグリースは鉱油と脂肪酸、水酸化カルシウム(消石灰)と水を加え、加熱けん化し、けん化終了後、水分を調整して製造されます。牛脂系脂肪酸を用いたグリースは、構造安定剤として若干の水分を必要とするため、80℃以上では水分の分離によって構造が破壊され石けんと基油が分離します。したがって、耐熱性に乏しく、約70℃以下の温度で比較的低速・低荷重の一般滑り軸受等の潤滑、特に耐水性に優れていることから、水を使用する箇所 の潤滑に適しています。一般にカップグリースの名称で呼ばれることもあります。
一方、ひまし油系脂肪酸を用いたグリースは、水分を含まずに安定な構造を作るため、約100℃まで使用できます。
リチウム石けんグリース
リチウム石けんグリースは、万能グリースとして一般工業・自動車・各種軸受・家電製品にいたるまで、もっとも広範囲に使用されています。鉱油または合成油と、ステアリン酸リチウムまたはひまし油の硬化脂肪酸のリチウム石けんを増ちょう剤とし、広温度範囲で使用でき、耐水性・せん断安定性にも優れています。
アルミニウムコンプレックスグリース
水酸化アルミニウムに芳香族カルボン酸およびステアリン酸を反応させた石けんを増ちょう剤とし、極めて細かい繊維構造を持ちます。200℃以上の滴点を持ち、耐熱性・耐水性・せん断安定性が非常に優れています。
リチウムコンプレックスグリース
一例として、水酸化リチウムに脂肪酸と二塩基酸を反応させた石けんを増ちょう剤とし、滴点が260℃以上あり、耐熱性・耐水性・防錆性に優れ、リチウムグリースと比較して高温条件下で使用できます。
非石けん系グリース
ウレアグリース
ウレアグリースは一般に、ウレア基(-NH-CO-NH-)を2個以上有する有機化合物を増ちょう剤としたグリースです。耐熱性と耐水性に優れるため、製鉄メーカーの連続鋳造設備、圧延機などで使用されており、非石けん系の代表的なグリースです。
また、自動車・電装部品にも多く使用されており、リチウム石けんグリースの耐熱限界を超える箇所には、合成油を基油としたグリースも用いられます。
ベントナイトグリース
有機化ベントナイトを増ちょう剤としたグリースで、「滴点の無いグリース」「融けないグリース」と呼ばれ、非常に高い温度までグリース状を保ちます。せん断安定性をはじめその他の性状も優れているが、比較的防錆性が弱いこと、200℃以上に長時間さらされた場合、固化すること、高速回転のベアリングではレース面が乾いた状態になることなどが欠点としてあげられます。
その他の非石けん系グリース
上記の他に、Naテレフタラメート、銅フタロシアニン、テフロン(PTFE)、マイカ、シリカゲルなどを増ちょう剤とするグリースも用いられています。
増ちょう剤によるグリースの特性比較
石けん系グリース
増ちょう剤の種類 | 最高使用 可能温度 |
耐水性 | せん断 安定性 |
備考 | |
---|---|---|---|---|---|
![]() |
カルシウム石けん (ステアレート系) |
70℃ | △ | △ | 構造安定剤として約1%の水分を含む |
カルシウム石けん (ヒドロキシステアレート系) |
100℃ | ○ | ○ | 水分を含まない | |
アルミニウム石けん | 80℃ | ○ | × | 粘着性に優れる | |
ナトリウム石けん | 120℃ | × | △ | 水により乳化する | |
リチウム石けん (ステアレート系) |
130℃ | ○ | ○ | 最も欠点が少なく、万能型 | |
リチウム石けん (ヒドロキシステアレート系) |
130℃ | ○ | ◎ | 最も欠点が少なく、万能型 | |
![]() |
カルシウム コンプレックス |
150℃ | ○ | ○ | 経時、熱により硬化する傾向 |
アルミニウム コンプレックス |
150℃ | ◎ | ◎ | はっ水型、圧送性良好 | |
リチウム コンプレックス |
150℃ | ○ | ◎ | リチウム石けんの耐熱向上型 |
☆: 非常に優れる・Outstanding ◎: 優れる・Excellent ○: 良好・Good △: 普通・Fair ×: 劣る・Poor
非石けん系グリース
増ちょう剤の種類 | 最高使用 可能温度 |
耐水性 | せん断 安定性 |
備考 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
![]() |
ジウレア | 芳香族ジウレア | 180℃ | ☆ | ☆ | ウレア系では最も安定、密封性に適する |
脂肪族ジウレア | 180℃ | ◎ | ◎ | 万能・せん断軟化型、集中給脂用に適する | ||
脂環式ジウレア | 180℃ | ◎ | ◎ | 万能型、一部のものはせん断で硬化 | ||
トリウレア | 180℃ | ○ | △ | 熱により硬化 | ||
テトラウレア(ポリウレア) | 180℃ | ○ | △ | せん断により軟化、ロットのバラツキ大 | ||
![]() |
ナトリウムテレフタラメート | 180℃ | ○ | ○ | 油分離大、金属基含有のため酸化劣化大 | |
PTFE | 250℃ | ☆ | ☆ | 最も安定、コンパウンドで大量に要、コスト高 | ||
![]() |
有機化ベントナイト | 200℃ | △ | ○ | 長期高温使用で炭化 | |
シリカゲル | 200℃ | × | × | 水の存在下で発錆しやすい |
☆: 非常に優れる・Outstanding ◎: 優れる・Excellent ○: 良好・Good △: 普通・Fair ×: 劣る・Poor
電子顕微鏡(倍率:×104)で見たグリースの増ちょう剤繊維構造
石けん系グリース

(ステアレート)
石けん系グリース

(ステアレート)
石けん系グリース

(ステアレート)
石けん系グリース

(ヒドロキシステアレート)
非石けん系グリース

非石けん系グリース

鉱油系グリース
現在、鉱油系の潤滑油を基油としたグリースが一般的です。
合成油系グリース
鉱油系グリースで対応できない条件(低温性、耐熱性、低トルク、長寿命)で使用でき、合成油の種類により各々特徴のある性能を発揮します。
エステル系合成油(ジエステル、ポリオールエステルなど)
潤滑性に優れ、低温から高温の広温度範囲で使用できるが、ゴムを膨潤させることがあります。
合成炭化水素油
低温から高温の広温度範囲で使用可能です。極性基を持たない分子構造の為、対ゴム・対樹脂性に優れるが、天然ゴム、EPDMには適しません。
ポリグリコール系合成油
ゴムに対して影響が少ないので、ゴムに接する用途に使用でき、また、合成炭化水素油が適さない天然ゴム・EPDMにも使用できます。
フェニルエーテル系合成油
熱・酸化安定性に優れるので、耐熱性が必要とされる自動車電装部品に適しており、また、耐放射線性にも優れています。
シリコーン系合成油
熱・酸化安定性に優れ、広温度範囲で使用できるが、鋼対鋼の境界潤滑性に劣ります。
フッ素系合成油
現状で最も耐熱・酸化安定性に優れ、耐薬品性にも優れるが、非常に高価であるのが欠点で、化学プラント・高温乾燥炉・複写機ヒートローラー向けに適しています。
基油によるグリースの特性比較
鉱物油 | ジエステル | ポリオール エステル |
合成炭化 水素油 |
ポリグリ コール |
フェニル エーテル |
シリコーン | フッ素系 合成油 |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
構造式(代表例) | 混合 炭化水素 |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
|
性能 | 想定油種 | P系中粘度油 | DOS | 中粘度PET | 中粘度PAQ | 中粘度PPG | ADE | ジメチルシリコーン | 中粘度PFAE |
潤滑性 (油性) |
○ | ◎ | ◎ | ○ | △ | ○ | × | ○ | |
耐熱性 | × | △ | ○ | ○ | ○ | ◎ | ☆ | ☆ | |
酸化安定性 | × | △ | ○ | ○ | △ | ◎ | ☆ | ☆ | |
低温性 | △ | ☆ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ☆ | ○ | |
対ゴム性 | △ | × | × | ◎ | ☆ | ○ | ☆ | ☆ | |
対樹脂性 | △ | × | × | ◎ | × | ◎ | ☆ | ☆ | |
備考 | 安価 | 対ゴム性に劣る | 一般に対ゴム性に優れるが、天然ゴム、EPDMには不適合 | 天然ゴム、EPDMにも適合 | 耐放射性にも優れる | 鋼対鋼の境界潤滑性に劣る | 現状では最も化学的に安定、非常に高価 |
☆: 非常に優れる・Outstanding ◎: 優れる・Excellent ○: 良好・Good △: 普通・Fair ×: 劣る・Poor